KDDIの「povo2.0」が始動、プリペイド感覚で使える革新性でヒットするか|@DIME アットダイム

沿って : Ilikephone / On : 25/05/2022

■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議

スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回はKDDI「povo2.0」をはじめとする各社のお得な携帯料金プランについて話し合っていきます。

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本来狙っていた内容でpovo2.0が始動!

房野氏:KDDIのオンライン専用ブランド「povo」がリニューアルして「povo2.0」として9月29日から始まりました。内容がずいぶん変わりましたね。

房野氏

石川氏:povoについては驚きというか、がんばったなと思っています。あれが、KDDIが本当にやりたかったpovoの姿なんだろうなと。povo1.0を2021年1月に発表して3月にスタートしましたが、あれは総務省や当時の武田良太総務大臣対策。ahamo、LINEMOが発表されたから追随的にpovoも始めたということでしかなかったのかなと。練りに練って、ようやく発表されたpovo2.0は画期的だと思います。povoにしようかなと言う人も周りに多いし、使わない回線をpovoにしておくか、みたいな感じがある。色々可能性を感じます。自分もauのメイン回線をpovoにしようかなと思ったくらい。ただ、Apple Watchを使っている身としては、povoはナンバーシェアに対応できていないので乗り換えを待っているところ。インパクトはあると思うし、他社がどう対抗してくるか注目しています。

石川氏

石野氏:KDDI Digital Life(MVNOとしてオンラインに特化した通信サービスを提供する運営子会社)が発表されたのが去年の10月末。あの時は当時の武田大臣から、メインブランドの値下げについて「怒られる」前だったんですよね。本当は今の形のpovoとして始めたかったのかなと、なんとなく感じますね。それが、ドコモがahamoを発表し、とりあえず対抗姿勢を見せないといけなくなったので、povo1.0は急遽、慌てて作った感があるかなと思いました。だから、発表からスタートまで色々中身が変わった。今回、システムがガラッと変わっているっぽいんですよね。KDDI Digital Life色が強く出ているというか。

石野氏

石川氏:SIMカードが変わるもんね。

石野氏:そうそう、auからpovoに移ってもSIMカードが変わるし、APNも違う。そして付かなくなるサービスもあったりする。MVNOっぽくなったというか、本来、povoはMVNOとしてやるつもりだったんですよね。一応、KDDIのオフィシャルコメントとしては、「povo1.0、2.0、どちらもKDDI Digital Lifeが監修していて、ウチがやっているサービスです」という感じなんですけど、au色は薄くなるかなという感じがしますね。

石川氏:ロゴに使われていた「povo on au」という文字から「on au」がなくなったし。

石野氏:いつの間にかなくなった。一応、プレスリリースの最初に「auのオンライン専用ブランド」という1文が残っていますが、au色は薄めていっている。

石川氏:菅総理大臣が退陣するとなったら、急に変わった。

石野氏:露骨すぎる(笑)

石川氏:わかりやす過ぎる。

石野氏:石川さんがおっしゃっていたように、povoはベースプランが月額0円からで維持しやすいし、たくさん使う人用の対策もちゃんとされている。150GB 1万2980円のデータトッピングを契約すると結構安いんですよ。

石川氏:そう、月額2163円で1か月に25GB使える計算。

法林氏:povoはシンガポールの通信事業者のCircles Asiaと組んで運営するという話なので、海外でやっているプリペイドの料金プランを、そのまま日本で求められる条件に合わせた印象。それは安くなるよねと。日本の携帯電話業界は圧倒的にポストペイド中心。国としても契約時は本人確認を徹底しなさいと言っているので、そこでプリペイド的な安さを狙うと、こうなる。元々、現在の形でスタートしたかったんでしょうけど、この半年間は違う形で提供していた。「準備ができました」ってことで、今回、本来やりたかった仕様で出したんでしょうね。

法林氏

石野氏:僕、楽天モバイルは、1GBまでならとりあえずお金がかからないので、全国民が契約してもいいと考えているんですけど、povoも基本料0円だし、しかもローソンとかで買い物をするとギガをもらえる。まぁ、ローソンだとギガではなくてメガしかもらえませんけどね。ただ、ちゃりんちゃりんと入ってくるので、毎日ローソンで買い物をしている僕とかは0円で使い続けられるんじゃないかと(笑)

石川氏:ローソンは500円以上au PAYで買い物をすると、300MBもらえるよね。

石野氏:そう、300MBが積み重なっていく。1回だけじゃなくて回数分もらえるので、これはひょっとしたら「ポイ活」ならぬ「♯ギガ活」をする人たちが出てくるんじゃないかと。

法林氏:povo2.0ではコンテンツのトッピングができることが大きいと思っている。

石川氏:DAZNですね。

法林氏:さすがKDDIだと思った。「DAZN使い放題パック(7日間)」は、サッカーの代表戦を見るような人にとってはすごくいい。

石野氏:いいですよね。

法林氏:すごくいい。もしかするとコンテンツ提供側もそれをうまく利用することができる。例えば中継がない野球の試合とか、日本シリーズとか独立リーグとか、ゴルフだったらマスターズの放映権を買ってきて、その1週間を売ることもできる。“Netflixで年末年始2週間だけトッピング”をやるとかでもいいかもしれない。KDDI的には結構大きいんじゃないかな。

石野氏:Netflixを使えるようにして欲しかったなとは思いましたね。例えば「鬼滅の刃 無限列車編」テレビシリーズをやる前に、1週間で今までの作品を一気見するとかができるので。そういう使い方ができるのは面白いなと思いました。

法林氏:KDDIはAmazonやYouTubeと組んでやっているじゃないですか。僕が期待しているのは、トッピングを他の人にギフトで贈れる仕組みができるようになること。そこまでできれば優秀。

石川氏:かつてのKDDIの「デジラ」っぽい立て付けというか。容量がそれぞれあって、コンビニで吊しのカードを買ってチャージできた。今は機能していないけれど、ああいうやり方に似ている。povoはデジタルネイティブ向けなので、「アプリでなんでもやりましょう」という世界観だけど、リアルと絡めようと思ったら、さっきの「#ギガ活」もそうだし、コンビニでカードを買う感じでDAZNを買い増しするとか、Netflixを買い増しするとかができるので、いろんな可能性を感じた。他社がマネしようとしても、なかなか難しい。

房野氏:どの辺りが難しいですか?

石川氏:いろんな仕組みが入っているので、システムを変えなくてはいけない。単に料金を下げました、という話ではない。

KDDIの「povo2.0」が始動、プリペイド感覚で使える革新性でヒットするか|@DIME アットダイム

 今回の一連の料金の動きを見ていて思うのは、KDDIとソフトバンクにはサブブランドがあって、ある程度経験がある。サブブランドがあって、さらにいかにしてARPUを稼いでいくかという仕掛けがあるんですよ。単なる値下げではなくて、「電気とセットにしたら解約しにくくなるよね、家族で入るよね」とやって、そこでまた囲い込める。いったん値下げするように見えるけれど、回復させる仕組みが入っている。一方、ドコモにはその仕組みが入っていない。下がるだけ。ようやく「ドコモでんき」を発表したけれど始まるのは半年後。

法林氏:ドコモでんきの話を聞いていると、やり方がNTTっぽいなぁと感じるよね。

石川氏:まさにそうです。

法林氏:ドコモでんきをやるのはいいけれど、先にNTTの澤田社長が出てきて、「環境に配慮するからこうする」というような話をした。環境の話はもちろん理解できるけれど、そんなことは気にせず、ドコモは普通に電気事業をもっと早くやればよかったのにと思った。

店舗があるUQ mobile、プリペイド感覚のpovo

房野氏:povoとUQ mobileとの棲み分けはどうやっていくのでしょうか。

石野氏:店舗のあるUQ mobileとないpovoで大きく違います。あと、povoの料金は月額じゃないんです。データトッピングは3GB以上になると期限が30日間なんですよ。月額ですらない。月の初日に契約して、うっかりデータを追加し忘れたらその月の最終日は低速でしか使えなくなる。

石川氏:データを使い切っても終わり。

法林氏:だからプリペイド感覚なんだよね。

石野氏:プリペイドなので、放っておいたら使えなくなるし、アプリを使って自分でなんとかするという人じゃないと使えない。UQ mobileはお店、auのお店でも、行けばなんとかなる。

法林氏:UQ mobileは、UQでんきの話もそうだけど、ちょっとおひとり様向けにシフトしているかなって気がしている。UQ mobileはY!mobile対抗で、Y!mobileのユーザーは意外に上の年齢層が多くて、UQ mobileもそこに追随していたけれど、今回のUQでんきの取り組みを見ると、おひとり様需要に応えられる気がする。おひとり様を含めてちょっとターゲット層を広めにする、でも、どちらかといえば単一世帯向けかなと。

房野氏:少し先の話なんですが、例年、1月、2月くらいに新しい学割プランが出てきますよね。

石野氏:学割はやっていますが、サブブランドは元が安いから、たいした値引きにならない(笑)

房野氏:povoでやるとかは……

石川氏:たぶんメインブランドで使い放題を安くする方向だと思う。ドコモが「U30ロング割」をやっていますが、あっちの方向だと思います。

法林氏:若い年齢層はデータをたくさん使うもんね。

石川氏:povo1.0の頃だと、UQ mobileと近い感じがしてぼやっとしていましたが、povo2.0で振り切った。UQ mobileと差別化された気がする。その点、LINEMOとY!mobileの性格は結構近い。LINEMOはもうちょっと振り切って、寺尾さん(Y!mobileの事業を統括するソフトバンク 常務執行役員の寺尾洋幸氏)はがんばらないといけない感じがする。

法林氏:ただの第2Y!mobileでしかない。

石野氏:PayPayでお得にならないY!mobileって感じ。

石川氏:Yahoo!プレミアムがないY!mobile。

法林氏:povoみたいなパートタイムで使えるものを各社がやるようになると、だんだん回線数を減らしていくことになっちゃうのかなっていう危惧を僕は持ちました。メイン回線の方でトッピングみたいな技が増えてきたりeSIMができてきたりすると、無理にMVNOとかサブブランドに移らなくてよくなる。ユーザーとしては安くなるけど、少し先の長いスパンで見ると、業界として、あまりいい方向に進まないかもしれない。

石野氏:povoは、とりあえずauユーザーに2回線目を持たすことになるし、確実に契約数は増えそうだなと。

法林氏:でも収益につながらない。

石野氏:衝撃的だったのは、端末補償の「スマホ故障サポート」がauの「故障紛失サポート with AppleCare Services」より安いんですよ。しかもSIMフリー端末に後から付けられる。

石川氏:でもスマホ故障サポートは月額830円でしょ。いい値段取るな、割高だなと思った。

石野氏:でもauで「iPhone 13 Pro」の補償に入ると1300円くらいかかるので、それに比べると安いんですよ。その代わり、交換用機種の負担金額がiPhoneだと1万円以上かかる。

「iPhone 13 Pro」

法林氏:アップルで買う時の「AppleCare+ for iPhone」の扱いがちょっと変わったかも。今回、アップルでiPhone 13を予約した時、定額プランと月額プランが用意されていて、どうせ一年で買い換えると思って、月額プランを選んだのね。出荷されたってメールを見たら、月額プランが勝手に削除されていて、ちょっと驚いた。端末が届いてから、iPhoneで直接、申し込みができるようになっていて、月額プランも選べたけど、ちょっと仕組みが変わったっぽい。あと、auはAppleCareの修理補償を永年化するんでしょ。ちょっとその辺、Appleさんの立ち回り方が変わってきた感じがする。

石野氏:auの端末補償を契約した人が、それをやめて、povoを契約してスマホ故障サポートトッピングを申し込んだら、そっちの方が安くなっちゃうんですよ。そう考えると万人向けじゃないかと(笑)。契約の難しさを考えると万人向けじゃないんですが。まぁ、いいタイミングでデュアルeSIMのiPhoneも出てきて、とりあえず、ここにpovoを1回線を入れておけばいい、みたいな感じがします。

......続く!

次回は、各社の〝購入プログラム〟について会議する予定です。ご期待ください。

法林岳之(ほうりん・ たかゆき)Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。

石川 温(いしかわ・つつむ)日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。

石野純也(いしの・じゅんや)慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。

房野麻子(ふさの・あさこ)出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。

構成/中馬幹弘文/房野麻子